Interview

インタビュアー:大留喜美子

 

いま、女性にとって最大の関心事といえば、美容と健康。より美しく健康になることが、価値ある人生をおくる上で欠かせません。そこで今日は、女性のシンボルといわれるバストに焦点をしぼり、美容と健康の問題について考えてみようと思いまず。東京でバスト専門のクリニックを開業していらっしゃる南雲吉則先生を訪ね、お話をうかがってみましょう。
 
開業ではバストの美容を、大学ではバストの健康を。先生のご専門はなんですか?
 
大留 はじめまして、イラストレーターの大留です。

南雲

はじめまして。とてもクリエィティプなお仕事ですね。僕もこのクリニックではクリエイティプな仕事をしているんですよ。
大留 ここはバストの美容手術専門の病院だとうかがっていますが?
南雲 ええ、女性のバストの美を創造する仕事です。その一方で、大学病院の外科で乳腺の外来を担当し、バストの健康を守る仕事もしているんですよ。
大留 開業する一方で、大学にも勤務している?めずらしいですね。
南雲 日本ではね。アメリカなどでは大病院のオープン・システムを利用して、半開業半勤務というケースはたくさんあるんですよ。そうすることで最新の医療情報や手術経験を、自分の仕事に反映させることができるでしょ。

南雲吉則
医療法人社団ナグモ会理事長ナグモクリニック院長。東京慈恵会医科大学外科一講師。バストの専門医として、また「乳房外科」創設を夢みて、東京、大阪、福岡の三ヶ所のクリニックでエネルギッシュに毎日を送っている。

大留喜美子
東京・人形町生まれのイラストレーター。『ポパイ』『ホットドック・プレス』など雑誌を中心に活躍中。趣味コーヒー栽培。自称“えんぴつ芸者”。
 
バストに関することなら何でも診る「乳房外科」。
欧米では立派に独立した診療科目です。
 
大留 しかし、ここでは美容の、大学では外科の仕事をしていらっしゃるわけでしょ。先生の専門は、いったいどちらなんですか?
南雲 「乳房外科」です。
大留 ニュウボウ?
南雲 聞いたことがないでしょう。僕が勝手につけた名前だから(笑)。でも、欧米にはプレスト・サージャリー(breast surgery, 直訳すると乳房外科)というりっばに独立した診療科目があるんです。ただし、これは乳癌が専門。僕が考えている乳房外科は、それをさらに一歩押しすすめ、バストに関することならなんでも診る。診療科目でいえば、外科、形成外科、美容外科、それに胸部外科と婦人科の一部までを扱います。
大留 そんなにいろいろ?
南雲 ひとくちにバストの悩みといっても、数えきれないほどありますから。いままでは、それらを各科がバラバラに受けもってきた。
  たとえば、乳癌だったら外科。しかし、乳癌手術のあとバストをつくり直したいときは形成外科。おなじつくり直すといっても、小さなバストや垂れたバストは美容外科で、胸部骨格に変形があれば胸部外科。授乳中におこりやすい乳腺炎などは婦人科といったぐあいです。
大留 それは不便ですね。
南雲 これが下半身の悩みなら、なんでも婦人科へ行けばいい。初潮をむかえてから生理不順、妊娠、出産、流産、子宮筋腫、癌。そして更年期障害や老人性膣炎まで、一生を通じて婦人科でケアしてもらえます。
 ところが、もうひとっの女性のシンボルであるバストには、一ヶ所でなんでも診てくれる病院がない。理想的には、女性の人生のなかで生じるさまざまなバストの悩みに、いつでもお応えできる医者が必要です。
 
数えきれないほどバストの治療をしているのに、どうして乳房外科って名乗れないのですか?
 
大留 なぜ、いないのですか?
南雲 ふつう外科の先生は胃腸の癌の手術が専門で、乳癌は片手間にやっていることが多い。乳癌を専門にやっている先生でも、形成外科や美容外科の勉強まで手がまわらない。それは、形成外科や美答外科の先生もおなじです。ふだんは目鼻の手術が多くて、バストは年に数例くらい。これでは乳癌の勉強までしている暇はありません。
大留 でも、先生は両立しているわけでしょ?
南雲 僕の場合、父が美容外科をやっていたし、大学の先生やまわりの人たちの理解と協力があったから、1年中バストの手術ばかりしていられる。とてもラッキーな例ですよ。
大留 1年に何件くらいの手術をなさるんですか?
南雲 豊胸術だけで500人くらいかな。ほかの手術を入れると数えきれない。バストの手術件数では日本一と自負しています。
大留 オカマも相談に来ますか?
南雲 美しくなりたいという気持ちに男も女もないようです。
大留 (笑)。それにしても、それだけの経験があるなら、このクリニックも『ナグモクリニツク』でなく『ナグモ乳房外科』と看板を出してもいいんじゃないですか?
南雲 実は、僕もそう思っていた。ところが、お役所に届を出したら「乳房外科」というのはダメだって……。
大留 どうしてですか?
 
女性の下半身のことなら、あらゆる年代のあらゆる悩みを解決する産婦人科。バストにもそういう科がほしい。
 
南雲 「内科」とか「外科」とか、名乗っていい科目が法律で決められているわけです。いままでバストばかり診る医者なんていなかったから該当する科目がない。なければ患者さんのためにつくればいいと言ったのですが、「法律で通らなくちゃダメ」というつれない返事でした。
大留 でも、女性の立場からすればあったほうがいいと思う。
南雲 ええ。ですから、僕は「乳房外科」をつくることをライフワークにしょうと考えたのです。まず、東京と大阪、福岡にクリニックを建て、自分ひとりでも「乳房外科」を自称することからはじめる。そして、僕とおなじ志をもつ医者を育て、日本中にばらまく。ゆくゆくは学会をつくり、「乳房外科」を名乗れるようにしたい。それが僕の夢です。
大留 すばらしい考えですね。
南雲 この若さで大言壮語していると思われるかもしれませんが(笑)、いまからはじめておけば死ぬまでには問に合いますからね(笑)。

バストに関連する診療科の核となる乳房外科
 
どうしてバストを専門に選んだか?
それは父親の仕事をとおしてバストの悩みを抱える女性の姿を見たからです。
 
大留 それにしても先生は、どうしてバストを専門にしようと思ったのですか?
南雲 美容外科をしていた父親の仕事を通じて、もの心つくころからバストの悩みをかかえる患者さんの姿を見てきたことが大きいと思います。
 たとえば戦後、合成樹脂の注射でバストを大きくする手術が流行したことがありました。その手術を受けた人たちのバストは硬くなったり、皮膚に注入物がしみ出てきたり。しまいには死者まで出る結果になったのです。患者さんが苦情をもって病院へ押しかけたときは、すでにもぬけのカラでした。手術をした医著は、いままで稼いだお金をかかえて行方をくらましてしまったのです。
大留 そんなことがあったのですか?無責任ですね。
南雲 そうなんです。僕はそれじゃあダメだと思う。もちろん、医学というのは、最初から正しかったわけではありません。これなら正しいだろうという仮説と、その実証の繰り返しで築かれてきたのです。そして、患者さんにとっては迷惑なことだけれど、ときには実証の過程で失敗もおこる。しかし、僕はまちがってしまったこと自体がはずかしいのでなく、その後始末をしないことがはずかしいと思うんです。
 
ひとつのバストの手術をするということは、
その人のバストを一生診ていく責任が生じるということ。
 
大留 ええ、無責任な先生には、自分のバストはまかせられませんよ。
南雲 ひとつのバストの手術をするということは、そのバストを一生診ていく責任が生じるということだと思うんです。手術をした人がこれから先乳癌にならないか?乳腺炎になったとき、なかの挿入物に変化が起きないか?そういったところまで自分の目でたしかめる作業がなければ、医者として無責任だし、医学の進歩もありえません。
大留 同感です。ところで、現在はどんな方法で豊胸術が行われているのですか?
南雲 挿入法といってシリコン膜でおおわれた人工乳腺を入れます。
大留 どこから入れるのですか?
南雲 通常はアンダーバストか乳輪を切り、皮膚のすぐ下にいれます。しかし、この方法ではバストに傷がつくし、硬く不自然になりやすいのです。そこで僕の場合は、わきの下を切ってそこから胸の筋肉のあいだに入れています。これなら傷をつけずに自然なバストがつくれる。
大留 未婚の女性が手術をしても、授乳には影響ないのですか?
南雲 ありません。いままでのように乳腺のすぐ下に入れると、いろんな影響がでるでしょうが、僕が入れている場所は、胸の筋肉によって乳腺とシリコンがへだてられていますから。
大留 ひとくちに豊胸術といってもいろんな方法があるんですね。手術を受けるかどうかは別間題ですが、女性として、そういう話にはすごく興味があります(笑)。ところが、豊胸術の方法なんて、あまり一般酌に知られていない。情報が少なすぎますからね。ファッションだったらいろんなデザイナーがいて、流行情報があって、そのなかで自分の好きな洋服を選べるでしょ。
 いまのお話を聞いているうちに、美容外科についてお医者さんの個性から最新の手術方法まで、もっとたくさん情報をだしてくれればいいのにと思ったりしました。
 
もっと自分のバストに興味をもってほしい。美しさを保つためにも、 乳癌から身を守るためにも。
 
南雲 そうですね。患者さんに常にあたらしい情報を提供し、そのなかから最も自分にあった治療法を選んでもらう、というのは理想的だと思います。いまのように閉鎖的環境のなかで、医者が与えたものがいちばん、わたしを信じなさいという押しつけはよくない。
大留 それには、お医者さんからのメッセージがオープンになっていかないとダメですよ。
南雲 はい(笑)。僕たちも、もっと自由に自分の意見を述べられるよう努力すべきだと思います。
 そのかわり、女性のほうにもひとつ注文があるんです。まちがった意見を述べる医者もいれば、いいかげんな口コミもある。ですから、あやまった情報にまどわされることのないよう、日頃からバストに対して正しい知識と興味をもってほしい。
 一日に1回でもいいから、湯上がりに鏡の前に立って、バストのビューティー・チェックとヘルス・チェックをする。わたしのバストはきれいかしら?しなぴていないかしら?しこりができていないかしら?とちょっと見てあげる。女性もバストも見られて、ふれられて、美しく健康になるのです。
 顔のお手入れやダイエットにばかり気を取られず、ときにはバストをとおして美と健康を考えてほしいと思います。

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